相続登記をご自分でするための方に、実務のノウハウを記事にしました。免責事項についてはコチラ
遺産分割の協議をする
順番ではこちらに位置していますが、むしろ誰が不動産を相続するのか(不動産名義を取得するのか)については先に内諾をとりつけておいて、それから戸籍などの必要書類を収集するほうが一般的だと思います。先に書類の収集を始めるとお話がまとまらなかった場合に、費用をかけてわざわざ苦労しただけになるので臨機応変に対応したいところです。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が整ったら、法務局に提出できるように遺産分割協議書を作成します。雛型は法務局のHPにもありますし、インターネットでも沢山ありますので、都合の良いものをダウンロードして作成します。相続登記申請に必要な遺産分割協議書の記載内容は以下の通り。
- 被相続人の氏名
- 被相続人の最後の本籍
- 被相続人の最後の住所
- 被相続人の登記簿上の住所
- 被相続人の死亡日
- 相続人全員で協議がまとまった旨
- 相続する不動産の表示
- 遺産分割協議の成立日
- 相続人全員の住所・氏名・実印で押印
被相続人の最後の本籍
被相続人の最後の本籍は、被相続人の死亡日が載っている戸籍謄本の本籍地をそのまま記載し、都道府県から記載していきます。縦書きの戸籍謄本の様式の場合ですと、数字が漢数字になっていますが、○○丁目までは漢数字(丁目までは所在になりますので漢字で記載します)で、番地以下はアラビア数字で結構です。
被相続人の最後の住所
取得した住民票の除票または、戸籍の附票に記録されている最後の住所地を都道府県から記載していきます。住所に関しては、基本的には都道府県から記載するのですが、大阪市など都道府県と同じ名称であって区政施行されている行政区画の場合は、大阪市○○区などのように都道府県を省略する場合が一般的になります。心配でしたらすべて都道府県付で記載すれば問題ありません。登記完了後に全部事項証明書に記載される住所は法務局の規定に従って、都道府県を省略されたり調整されます。
被相続人の登記簿上の住所
これに関しては、不動産の全部事項証明書に記載されている甲区に記載されている通りの住所を記載するのですが、不動産の全部事項証明書ごとで住所が異なる場合は、すべての住所をしてください。昔に登記されたものである場合、申請書に記載されている通りの住所が記録されているので、堺の場合だと大阪府が省略されて堺市からの記載や、区政施行前の記載、住居表示実施前のもの、など色々とありますが、記載されている通りを転記する要領でそのままを記載する必要があります。
死亡日と協議成立の旨、不動産の表示
令和○年〇月〇日 上記被相続人 ○○○○ の死亡により相続が開始したので、同人の相続人において、その相続財産について分割協議を行った結果、各相続人が次のとおり分割することに決定した。(一例です実情に応じて変更)。
1.相続人○○が取得する不動産
所在 堺市堺区中安井町三丁(堺は丁です)
地番 4番10
地目 宅地
地籍 100.00㎡
協議成立日
私の事務所では、実際に相続人全員でお話をして内諾を得られた日か、または、遺産分割協議書に署名捺印する日のいずれかでお願いしています。遺産分割協議が成立すると被相続人が死亡した日にさかのぼって不動産を取得する効果が生じることになりますので、合理的な日付であれば特に問題になることはありません。
相続人全員の署名と実印での押印
被相続人の出生から死亡までの戸籍に記録されている相続人全員が署名し、実印での押印をしないと遺産分割協議が成立した事実を法務局に証明できません。取得した印鑑証明書の記載の通り(都道府県は含める)、住所と氏名を署名してもらう方法でも良いですし、パソコンで住所氏名を記名しておき、実印の押印だけをご本人にお願いする方法でも相続登記の申請では問題ありません。
ただし、後日、争いになった際、勝手に実印を押されたと言われないために、お名前くらいは自署してもらう方が良いかと思います。添え手がないと自署できない方や、目が見えずらくなっている方もいらっしゃるので、そこは臨機応変に考えて作成しておくと良いと思います。
※印鑑証明書記載の通りとは、使用する漢字も含めて完全に一致するようにしてください。(正字、俗字、戸籍字など)
捨印・印影の確認について
実印については可能な限り捨印をいただき、軽微な訂正がある場合に備えておくほうが良いでしょう。ただし、実印での捨印を拒否する方もいるので強要はできませんのでご注意ください。また、押印当日に訂正箇所があった場合は、訂正箇所に全ての相続人の実印を押印して訂正してください。まれに別の印鑑(小さな印鑑など)で訂正印とする方がいらっしゃいますが、捨印も実印で押印しないと意味がありません。
また、陰影に関してはブレやカスレがあると登記申請に影響がでますので、なるべく印鑑マットを敷き丁寧に押印頂くようにしてください。押印いただいた印影については印鑑証明書を上から載せて、押印した印影と印鑑証明書の印影の位置を調整し、ペラペラとめくりながら残像で印影照合をし、実印の印影で間違いないか確認するようにしてください。実印のサイズ違いで銀行印などを作成されていたり、勘違いにより実印以外の押印をすることがあります。
相続人中に認知症の方・未成年者が居る場合
遺産分割協議に際し、認知症の進行等により意思疎通が出来なくなっている相続人がいる場合は、意思疎通が出来なくなった相続人の代わりに遺産分割協議に参加する成年後見人を家庭裁判所に選任する必要があります。よって、意思の確認ができなくなっている相続人に対して、住所氏名をパソコンで記名し実印の押印をする、形だけの遺産分割協議書を作成しても、協議自体が無効になりますので注意をしてください。
また、未成年者は単独で有効な法律行為が出来ませんので、親権者が代わりに遺産分割協議に参加するか、このとき親権者も同時に相続人である場合は、親権者に代わって協議に参加する特別代理人を、家庭裁判所に対して選任する手続きが必要になります。
遺産分割協議書が不要な場合
遺産分割協議書は必ず作成しなければならないわけでは無く、法律で定められた法定相続分を修正する場合(たとえば長男が実家の不動産を単独で相続するなど)、相続人全員で遺産分割協議をしたうえ、その証明として協議書を作成しているだけですので、そもそも、相続人が1人だけである場合や、法定相続分で相続登記を申請する場合は遺産分割協議をする必要がありあせん。
法定相続分による相続登記について
相続人が一人の場合は別として、法定相続分で相続登記をすることについては、弊所ではあまりお進めしていません。理由は色々あるのですが、たとえば、相続した不動産を売却したい相続人がいたとしても共有状態であれば、他の相続人の承諾がなければスムーズに売却手続きもできないなどの弊害もありますし、結局、法定相続分で登記申請するということは、相続問題の先延ばしでしかないので、費用を掛けてまでするのは勿体ない気がします。ただし、相続登記の義務化が迫っているので悠長なことは言っていられない状況にはなっています。
相続関係説明図作成
収集した被相続人の戸籍を確認しながら相続関係説明図を作成します。エクセルで作成してもかまいませんが、見やすいのであれば手書きでも結構です。エクセルで作成すると文字の表示の仕方がプリントしたときとズレが生じますので作成しずらいイメージがあります。大事なのは見やすいことと、誰が相続した不動産を取得したということが分かるように、取得する相続人の名前のところに「相続人」と記載し、不動産を取得しない相続人については「遺産分割」と記載しておきます。また、持分の取得の場合は持分の記載も忘れないように注意が必要です。末尾には、「戸籍謄抄本及び除籍謄本は還付した」「申請人の氏名」を記載し、申請書に押印する印鑑と同一の印鑑で押印すること。